ベストの選書ではありません。著者1人につき1冊としました。ベストテンでもル・カレが5冊入ります。また最初にざっと書き出した本のほとんどが絶版でした。ネットで確認して22冊をえらんだのですが、それでも2冊が絶版。恐ろしい現実。
1「ロリータ」ウラジーミル・ナボコフ(新潮社)
ポルノの要素は皆無です。念のため。殺人者と淫売婦と聖書の修辞(「罪と罰」)をナンセンスな三題噺だと切り捨てるナボコフが書けば、小児愛も、独特で辛辣で強靭なひとつの美意識になります。
2「蒼ざめた馬」ロープシン(岩波書店)
本名サヴィンコフ。ロシア革命時のエスエル戦闘団ナンバー2。詩を詠むテロリスト。赤面してしまいそうな経歴ですが、青春の読書にロープシンをぜひ一冊。
3「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」ジョン・ル・カレ(早川書房)
(最高傑作の「パーフェクト・スパイ」をあげたかったのですが絶版)
小説は特別な才能の持ち主が書くもので、自分とは関係ないと思っていましたが、八ヶ岳で百姓をしていた時に読み、衝撃の深さに小説を書いてみたいという欲望が芽生えた運命的な作品。
4「血統」ディック・フランシス(早川書房)
本を捨てる主義です。20数冊あったフランシスのうち「血統」だけ捨てられず。二人の女性がじつに魅力的に描かれているので。
5「この不思議な地球で」巽孝之編(紀伊国屋書店)
装丁とか判型とかようするにモノの美しさだけで捨てられない本。
6「スローなブギにしてくれ」片岡義男(角川書店)
絶版!!
片岡義男のほとんどの本を角川書店が絶版にしてしまった。この場を借りて角川書店に厳重に抗議する。
7「敦煌」井上靖(新潮社)
高校時代に耽読したシルクロード物の白眉。彼の地への憧れはつのる一方で、熱病にうなされるようにして20代後半にイスタンブールからアフガニスタンを経て現在のカルカッタまで陸路を旅しました。
8「李陵・山月記」中島敦(新潮社)
壮大な運命劇も、胡軍と漢軍の鮮烈な戦闘場面も、シルクロードへとわたしを強く誘いました。
9「草原の記」司馬遼太郎(新潮社)
モンゴルの馬はモンゴル高原が大好きで、ベトナム戦争の前線へ荷役用として送られてひと仕事おえたのち、歩いてモンゴル高原へ帰ってきたそうです。一頭だけでなく、なん頭も。この話をわたしは信じます。
10「戦艦大和ノ最期」吉田満(講談社)
ここで構築されている美学は、わたしに、嫌悪と同時に、著者と作品へのリスペクトを抱かせます。稀有な読書体験でした。
11「文鳥・夢十夜」夏目漱石(新潮社)
日本語による小説の技法に悩まなければ、漱石の偉大さに気づくことはなかったでしょう。
12「ケーテ・コルヴィッツ版画集」岩崎美術社
(絶版のためフェアでは図版が多いという理由で「~肖像」を販売)
版画「農民戦争」から二つの世界大戦を経て彫像「ピエタ」へと至る軌跡は痛切ではあるけれど、芸術家としては敗北したのだと思います。敗北を拒否したレニ・リーフェンシュタール(写真集「ヌバ」)とつい比較を。
注:打海 12と13の間にレニの写真集「ヌバ」を入れたかったのですが絶版。
13「ヘンリー・ダーガー非現実の王国で」作品社
レニのように生きるのは困難でも、ヘンリー・ダーガーなら誰でもなれると思います。ぼろアパートの一室で赤貧と孤独のうちに死に、ペニスのある少女たちが悪の帝国と戦う変態じみた絵巻物を残せばいいわけで。
14「ゴッホの手紙 テオドル宛 中 下」ゴッホ(岩波書店)
半失業状態だった20代なかばに豪徳寺の小さな本屋で出会った本。弟テオドルにお金の無心をする手紙の束なのですが、勤労せず売れない絵に没頭する姿に、当時も今も胸を打たれます。
15「心臓を貫かれて」マイケル・ギルモア(文芸春秋社)
実人生でも虚構でも、家族の厄介な物語が苦手です。でも読みはじめたらとまらなくなりました。自ら死刑執行を要求した殺人犯ゲイリー・ギルモアの物語。著者はゲイリーの弟。
16「冷血」カポーティ(新潮社)
カポーティいわく「誰にでも得意ジャンルがある。わたしの場合それは大量殺人者だ」。殺人場面がなぜかT・ハリスの「レッド・ドラゴン」の殺人場面と、わたしの頭のなかで区別がつきません。
17「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険」菜摘ひかる(光文社)
著者は02年に逝去。わたしがこの本に出会ったのが06年。読み始めてすぐ、この人は死ぬぞと思いました。もう死んでるのに。
18「AV女優」永沢光雄(文藝春秋社)
ときおり文学してしまうのが残念ですが、優れたインタビュアーによる傑作という評価は変わりません。
19「セックス・チェンジズ」パトリック・カリフィア(作品社)
パット・カリフィアの「サフィストリー」を読み、新作が出たと思って購入。序文を読んでびっくり。パットが性転換してパトリックに改名。ええ!? トランスジェンダーをめぐる公正で熱く激しい論争の本です。
20「飢餓と戦争の戦国を行く」藤木久志(朝日新聞社)
恐ろしい話がいっぱい。たとえば16世紀末に、薩摩軍は豊後を攻めて人々を家畜のごとく連れ去り、ポルトガル人等の奴隷商人に売り払っていたとか。学校で教えてくれたら日本史が好きになったのに。
21「エロス論集」フロイト(筑摩書房)
精神分析が科学であれ想像力豊かな擬似科学であれ、なににせよフロイトの物語る力は秀逸で、だからこそ人々の心をいまも捉えつづけているのだということは納得させられます。
22「悪について」エーリッヒ・フロム(紀伊国屋書店)
フロムは生真面目すぎて物語る力に欠けますが、そういうことと関係なく、本書で展開される死への欲望の分析は、佐川一政の、ブッシュ・ジュニアの、ビンラディンの、わたしたちの悪の在り処を教えてくれます。
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